すみれ会　栃木県女性経営者100人

【1】ブロックタイトル

今年で創業96年を迎える篠原歯科医院の三代目として院長を務め、早20年になります。幼少期から歯科医師である父の仕事を身近で見てきたこともあり、物心ついた頃には人の身体のしくみに興味が芽生えていました。そして迷わず医療関係の道へと進み、大学進学時には歯科医師を目指そうと決めたのです。その時はまだ自分が家業を継ぐとは考えていませんでしたが、大学卒業後に父が体を悪くしたこともあり、自然な流れで当院を受け継ぐことになりました。

　しかしながら当時は、女性歯科医師の存在はまだまだ肩身の狭い時代でした。特に年配の患者さんからは、医師が女性であるということで偏見を受けたこともあります。けれど「どんな時も誠実に行動で示していこう」という志を持ち、それまで自分が培ってきた知識や経験を活かし、診療に専念してきました。今では〝女性の先生だから〟という理由で当院を選んでくださる女性の患者さんも増えてきました。女性は結婚・出産といったライフスタイルによっても口内の状態が変化していきます。同じ女性同士だからこそ分かり合えることは多いと感じています。それは仕事をしていく上でも同じですね。現在会長を務めている「栃木県女性歯科医師の会」では、女性歯科医師の交流やサポートを目的とし、医療向上のための講座や親睦会、啓蒙活動などを定期的に行っています。同業の女性同士が支え合える環境があるということは、当時からとても心強いものでした。

感謝の気持ちを胸に 自分の信念を貫いた日々

「歯のメンテナンスをして一生自分の歯を健康に保ち、自分の歯で食事をして〝ああ、おいしかった！〟と一生を終えたい」というのが、私の指針となっています。それは自分だけではなく、患者さんにもそうあって欲しいと考えています。歯周病のメンテナンスをすることは、健康な歯を維持できるのはもちろん、脳血管障害や心臓病、糖尿病などの全身疾患の予防にもなります。しかし当時は、痛くなったところだけを治す治療が主流でメンテナンスの重要性をなかなか理解してもらえませんでした。けれど長く浸透させていくことで功を奏し、現在は「そういう治療をしてくれるからここに通っているんだよ」と言ってくださる方もたくさんいらっしゃいます。自分の信念を曲げずに診療を続けてきたことが、今に繋がっているのだと思います。　

患者さんをはじめ、当院のスタッフや家族に対し、「すべての人に感謝する」ということをモットーに今まで務めてきました。その思いはこの仕事を始めてからずっと変わらないですね。決して自分一人で歯科医師になれたのではなく、日々患者さんから育てられていると感じています。仕事中は時として、院長としての振る舞いが必要な場面はありますが、普段スタッフと接する時は上下関係なく、同じ目線でコミュニケーションをとっていきたいと考えています。スタッフは全員女性ですが、何か問題が起きた時には一人ひとりと向き合い、話し合いをします。女性が組織の中でリーダーシップをとっていくには、気持ちを汲み取る力が必要だと感じています。相手の気持ちを汲みながらも上司としてきちんと言うべきことは伝える、その姿勢が信頼関係を得るためには一番大切なことなんです。

一生お付き合いできる ファミリードクターでありたい

生きていく上で〝口から食べること〟は体にとって非常に大切なこと。食べることで体の細胞の一つひとつがつくられているのだと、診療を通して常日頃感じています。確かに点滴である程度は生命を維持できるかもしれませんが、健康を維持できているわけではありません。健康を維持しながら寿命を延ばすためには、口でちゃんと噛んで食べる、しっかり噛めて体を支えることが一番だと考えています。当院には赤ちゃんから年配の方まで幅広い世代の方が来院されます。三代目として当院を受け継いでいくのに大変な時期もありましたが、患者さんからいただいた言葉が支えになっています。「よく食事ができるようになった」「体の調子が良くなった」と言ってくださると、とても励みになりますね。

これからも皆さんが一生を通し、いつまでも口の中の健康を維持できるように、地域に根差したファミリードクターとして末永くお付き合いをしていきたいと思っています。