すみれ会

すみれ会 栃木県女性経営者100人

有限会社真清館

門前の栄枯盛衰の激流のただなかで 時代に流されず、錆びない生き方を貫く

代表取締役

清水 紅壬子

家や地域を引き継ぐ 重みと価値を背負って

私の生家は宇都宮市の中心部、二荒山神社の門前にて江戸時代から代々商売を営んでまいりました。「真清館」という屋号の創業は明治10年、五代目となりますが、そもそもは二荒山神社を詣でる人々に雑貨などを商う店だったようです。祖父の代に食堂を始め、当時としてはハイカラな洋食を提供して繁盛しました。父の代では3階建ての宴会場を持つ和風レストランを経営したり、寿司組合なども立ち上げました。デパート、映画館が立ち並ぶこの界隈は、長いこと県内一の盛り場でしたが、人々の暮らしが車中心になるにつれ人の足が遠のき、徐々に衰退していったのは皆さんの知るところです。

平成10年に「真清館」を5階建てのビルに建て替え、テナント業に参入しました。地域の将来を鑑みますと商売は先細りの可能性が大きく、固定資産税などの負担を考えれば賢明な選択だったと思います。生き残るために、つねに時代の流れを見据えてできる限りのことをしなければならないと、父から学ばせてもらいました。

ビルを建築したとき、私はこの5階で今風に言えば「カフェ」を始めようと計画をたてました。ランチが食べられる喫茶店というコンセプトでしたが、「5階の喫茶店にお客さんがくるはずがない」と銀行からは融資を断られ、両親に借金をして友人と2人で始めたのです。ふたを開けたら、お勤めのお客様が日替わりランチを目的に訪れ、20席ほどの店は連日満員となりました。この店は3年前からイタリアで料理を学んだ息子が引き継ぎ、「オステリアBevi」という名でパスタや惣菜ランチがたいへん好評です。私も時間のあるときにはお手伝いをしています。

自分を磨く努力を怠らず 錆びない生き方

家業とは別に、私は山野流着装教室の着付けを長く学び、「準皆伝」として、真清館ビル、自宅、日本橋の三か所で着付け教室を開いています。また美容学校でも教え、着付師の仕事もさせていただいております。

山野流の着付けは器具をあまり使わないのが特徴ですが、「髪、顔、装い、精神美、健康美」という「五大美道」を基本として、着物をより美しく装うための知識と技術を伝承する組織です。日本の伝統美である着物のすばらしさを伝えるとともに、着物を着たときの何気ないしぐさや常識を教えるように心がけています。

着付けの仕事はヘア、メイク、着付けが分担でするものですが、すべて熟知したく、また美容師さんや美容学校の生徒さんを指導することから、自ら宇都宮美容専門学校の通信部に学び、57才のときに美容師となりました。写真館などで数年ヘアメイクを担当させていただいて技術を磨き、これからはヘアメイク、着付けとすべてを一人でできる人材を育てていきたいと思っています。

山野流は初伝、中伝、奥伝と3 つのプロセスがあり、シンプルで分かりやすいものです。奥伝を終了すると着付師、奥伝講師、着物スタイリストの3 つの資格が同時に得られますが、その先、振袖の帯結びなどは200〜300も種類があるので、1 つの基本形を覚えて5 つのバリエーションを展開したり、自分の中に引き出しをたくさん作り、いつでも引き出せるように勉強することが必要で、とても奥が深いものです。この勉強は創造性や柔軟性が発揮できるのでじつに楽しい時間でもあります。着付師の仕事は毎年ありますが、お客様にとっての成人式などは一生一度きりのもの、失礼のないようにきれいに仕上げ、喜んで、満足していただける仕事をいつも心がけています。

着付けを長く続けられたのは、まずは楽しいから、そして素敵な恩師や仲間や生徒さんと出会ったからだと思います。また、とにかく学ぶことが好きで、華道は松風花道会正教授、ロマンドールやアートフラワーも講師資格を取り、今は茶道をお友だちと楽しく学んでいます。学生時代はロンドンへ短期留学したこともありますが、英会話をすっかり忘れてしまったので、そろそろ、ぼけ防止に勉強したいと思っています。

家族は、大学で教えている主人と母と息子家族含め7 人家族。食事の支度は毎日私の担当です。健康は食事からと手作りを心がけています。80代の母は日本舞踊の教室で今も教えていて、私のよき理解者です。家族の支えがあるから忙しい日々を乗り越えてこられたといつも感謝しています。

最後に、恩師の言葉に「教えることは教わることの多かりき」とありますが、知識や技術を教えることで、自分も人間的に成長していく気がしています。これからも周りの人との繋がりやご縁に感謝することを忘れずに、お店も経営も着付けも健気にがんばっていきたいと思っています。

profile

宇都宮市出身。( 有) 真清館代表取締役、レストラン「オステリア Bevi」経営。山野流着装準皆伝、山野流花嫁着付師。全日本一級着付 技能士。ほか、松風花道流正教授(華道)、茶道裏千家(専任講師)調 理師、美容師など資格多数。山野流芸術祭では平成9年に金賞受賞、 平成22年には内閣総理大臣賞を受賞。その他、宗家杯最優秀賞、優秀賞、 審査員技能賞など、多数の受賞者を輩出している。