すみれ会

すみれ会 栃木県女性経営者100人

声楽家

まだ知られざる、歌曲の魅力を伝えたい自然体で歌うことが自分を輝かせてくれる

小高 史子

ヨーロッパ留学を経て栃木で演奏活動

 私は東京藝大大学院を修了後、ウィーンに留学しました。ウィーンに在住しながらミュンヘンにも月の半分ほど滞在し、多くの演奏会に出演しました。宗教曲やドイツ歌曲のレパートリーが多いのは、この頃に蓄積したものです。

現在は宇都宮市を拠点にし、声楽家としての演奏活動を中心に、宇都宮第九合唱団での合唱指導や、NHK文化センターで声楽レッスンを行っています。

宇都宮第九合唱団は、1980年に宇都宮文化会館が開館したのを記念して設立された、アマチュアの市民合唱団です。年末に行うベートーヴェンの『交響曲第九番ニ短調』を歌うことを目的に、多くの方が参加されています。演奏会は2016年末で36回を数えるというすばらしい歴史があります。この第九演奏会の大きな特徴として、毎回、指揮者やソリスト、オーケストラには、世界でも名前を知られる一流のプロを招へいするということがあります。アマチュアといいながら、たいへんにレベルの高い合唱団です。

2007年に、松が峰教会でこの合唱団の元指導者の越智容子先生に出会い、私も指導者として参加させて頂くようになりました。また、多くの方々との出会いもあり、2度のリサイタルを開催するなど音楽活動を広げることができるようになりました。3回目のリサイタルも平成29年9月に計画中です。

歌曲への情熱と人との出会いが今につながった

今、こうして演奏活動をしていることが夢のように思えるときがあります。ヨーロッパから戻ってきた当時は音楽の仕事が全くなく、栃木の音楽事情も全くわからず、喫茶店でアルバイトをしていた時期もありました。もうこのまま、栃木で歌を仕事にすることはできないだろうと、音楽の道を完全に諦めていました。偶然、宇都宮合唱団との出会いがあり、演奏会で歌う機会を得られたことは、人生の転機だったと思います。

私は子どもの頃からピアノやクラリネットを習っていました。大学では音楽教育を専攻する事を考えていたのですが、高校時代に恩師、小二田幸子先生に出会い、声楽に転向しました。それまでピアノで褒められたことはなかったのですが、歌はとにかく褒められて、嬉しくて。結局一浪して藝大に進むことになったわけです。大学進学後は、伊原直子先生、戸田敏子先生をはじめ、すばらしい指導者に巡り会うことができました。先生方の薫陶を受ける中で、特に歌曲に興味を持つようになりました。留学時代には、宮廷歌手インゲボルク・ハルシュタイン氏などから充実した指導を受け、歌曲のレパートリーも増やすことができました。ドイツでは、数々のオーディションで評価されましたが、こうした経歴を持っていても、ヨーロッパとは音楽環境の違う日本で、栃木県で、歌うことを仕事にするのはたやすくありません。再び歌うことができるようになったことは、それまでの絶望を思えば涙がでるほどうれしかった。それと同時に、がんばって続けてきたこと、常に最善を尽くしてきたことが正しかったと強く感じました。

輝こうと思ってがんばるのは好きではありません。自然体で、ただその時々に最善を尽くすこと、そしてなんとかなると信じること。多くの苦しみを通して結果的に今の現実が正解なのだと知ることができました。

質の高い音楽を提供する場面を作りたい

私はドイツ歌曲とフランス歌曲が大好きなのですが、すばらしい曲がたくさんあるのに栃木では今ひとつ認知されていないのが少し残念です。イタリアオペラなどに比べると華やかさには欠けますが、知られていない美しい曲がたくさんあるのです。オペラでは2時間前後かけて大がかりに表現することを、歌曲はたった数分で、衣装もメイクも演技もなしで、伴奏者と二人きりで表現しなければなりません。ここに面白さがあると思っています。これからもいろいろな機会や場所で歌い、広げていきたいというのが夢です。

昨年はありがたいことに、私の後援会も発足しました。

コンサートでは、皆さんご存知の有名な曲を歌ってくださいとリクエストされることが多いのですが、知られていないすばらしい曲が世界にはまだたくさんあります。これからもどんどん歌って紹介していきたい。栃木県は合唱も盛んですし、歌う文化に関しては先進的だと思います。オペラの人たちも巻き込んで、ガラコンサートなども行いたいですね。

これからも、ここ栃木県には質の高い音楽がある、と思っていただけるような場面を発信していきたいと思います。

profile

小高史子 小山市出身、宇都宮市在住。声楽家。 東京藝術大学声楽科、同大学院音楽研究科声楽専 攻修了。卒業後はウィーンに留学、ウィーンとド イツを行き来し研鑽をつんだ。美しいソプラノの 歌声と歌唱力は、国内外でも高く評価されている。 宗教曲やドイツ歌曲のレパートリーも数多い。帰 国後は演奏活動や後進の指導など県内外で活躍中。