すみれ会

すみれ会 栃木県女性経営者100人

ニットデザイナー

類い希な感性で紡がれるワン&オンリーの作品たちニットの魅力を世界に発信

矢口 加寿子

音楽で得た経験がニットの世界で花開く

そもそもはチェロ演奏家として活動していました。宇都宮短期大学附属高校の音楽科、さらに国立音楽大学へと進み、国内外でさまざまなステージに立ち、テレビ出演、レコーディング、コンサートなどの音楽活動を行っていました。母がフローラ編物専門学校の校長として宇都宮で60年前から編物教育に携わっていましたので幼少よりニットは身近にありましたが、自分の進路として選んだのは音楽の道だったのです。

しかし音楽に没頭する毎日を送っていた30代前半の頃、過酷なスケジュールに追われ、心身ともに行き詰まった時期がありました。その時、心の安定を取り戻そうと始めたのが編物でした。一目一目編んでいく、その無心の単純作業は心を癒やしてくれただけでなく、1本の糸の生み出す小宇宙に私はたちまち魅せられてしまったのです。

しかし音楽に没頭する毎日を送っていた30代前半の頃、過酷なスケジュールに追われ、心身ともに行き詰まった時期がありました。その時、心の安定を取り戻そうと始めたのが編物でした。一目一目編んでいく、その無心の単純作業は心を癒やしてくれただけでなく、1本の糸の生み出す小宇宙に私はたちまち魅せられてしまったのです。ズンごとのコンセプトがあります。例えばそれがイタリアだとすると、オペラの由来から時代背景、絵画など、作品にまつわる発想のストーリーを、音楽をバックに伝えていきます。そのうえで、もちろんデザインあっての技術が提案されるわけです。きっとそれは従来のセミナーのイメージを覆す斬新なものだったかもしれませんね。

ニットデザインのトレンドを左右する責任の重さ

 講師を始めてから8年ほど経った頃、そんなセミナーのスタイルが評判になり、手編み糸メーカーであるパピーからオファーをいただき、今の仕事がスタートしました。数ある糸メーカーの中でもパピーという会社は常にトレンドの先端を行き、芸術性を重視している会社です。そしてセミナーに関しては私一人に任せていただいておりますので、私が提案するデザインの評価がその年の売上げにも大きく関わってきます。ですから全国の受講生やバイヤーの方々に至るまで注目されることになりますから責任も重大、プレッシャーも大きいわけです。デザイン、製作、その次にさらに多くの時間を要するのが原稿を起こす作業です。これはいわゆる編むための設計図のようなもので、かなり緻密な作業でとても神経を使います。これはすべて一人でこなすため、大変な時間を要します。そんなスケジュールの中で、春夏物、秋冬物とシーズンには全国各地でセミナーを中心に講演活動が数十回にわたって行われるので、とにかく休む暇もない毎日を送っています。

着る人をさらに引き立てるニットの魅力をアピール

私にとってのニットの魅力は、なんといっても創造的メディアであるということです。編み目でしか出せない独自のテクスチャーがとてもアーティスティックで、編むほどに無限の可能性を感じます。ニット作品にも音楽の演奏にも同じ表現手段として自分自身が投影されるわけですから、常に美しいものを見て、聞いて、感じて、感受性を研ぎ澄ませていなければなりません。長い間、演奏活動を通じて国内外を回り、いろいろな分野の多くの人達と出会ってきました。そこで得られたさまざまな体験が私のイマジネーションの原点となり、私のニットの幅を広げてくれているのだと思います。現在、宇都宮の教室でも多くの方が旅の思い出や心象風景などを編み上げた、アートの領域の一点物の創作に打ち込んでいます。栃木県はもちろん、全国に感動を共有する編物の輪が広がっていくのは、とても幸せなことだと思います。着る人の個性を引き立て、さらにその人の魅力を増す、そんなニットデザインの世界を広めていきたいと思っています。音楽の素晴らしさは言うまでもないことですが、編物の奥深い魅力をもっと一人でも多くの方に知っていただけたら嬉しいと思います。

profile

宇都宮市出身。国立音楽大学チェロ科卒業。チェロ奏者とし てコンサート、レコーディングなど国内外で活躍する。1990 年頃から本格的にニットにも取り組み、音楽とニットと並行 して活動する。ニットでは( 株) ダイドーインターナショナル・ パピー事業部の専属デザイナー。編物の本「世界の編物」「毛 糸だま」など各誌に作品を発表。フローラ編物学院長。